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あなたのためにおこること。

子供が産まれる何年も前の話だ。

妻と同棲を始めた。

集合住宅の類に住んでいた時、週1は焼肉をしていた。

卓上ガスコンロでやる本格的な焼肉だ。

当然煙が凄い。

その日はいつも以上に煙が出た。ホルモンでも脂がついているシマチョウなんて部位を、これでもかと焼いてしまったからだ。

これはマズいと思った時には遅かった。もう煙は止まらない。なぜか肉を焼く箸も止まらない。網の上にどんどんシマチョウを追加。

対面に座っている妻、当時は彼女が叫び始めた。

「なにしてんの。なにしてんの。火災報知器鳴って迷惑になる!なにしてんの!」

いや、なにしてんのって。焼肉ですよ奥さん。ホルモンはよく焼かないと。

意識がもうろうとしてきた。まだ焼けてないのかな?シマチョウ。

煙がもうもうとしている中、彼女が玄関に行ってドアをあけたのが分かった。

彼女がこっちに向かってなにか叫んでいる。

「まだ肉焼いてる!アホアホアホ」

まあ確かにアホですよと思い、肉を焼く箸を止めて玄関に視線を向けた。

ここは7階。その日は満月だった。煙の中から満月に照らされる鬼のような形相の仁王立ちの妻が現れた。

腰に手を当てて叫んでいる。

「アホわたる!アホわたる!」

なんて素晴らしい情景なんだろう。

まだその時まで、彼女との結婚は考えていなかった。

僕のために仁王像のような顔をして怒る彼女を見て思った。あ〜この子と結婚しないとなあ。

あの時、焼肉をしていなかったら、シマチョウを焼いていなかったら、妻と一緒になっていなかったかも知れない。

いつもより燃えてくれた焼肉に感謝している。