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僕の日記は嘘ばかり。

Last updated on 2020年9月30日

妻と同棲して2年目。まだ結婚はしていない。

祖父の引っ越しの手伝いを頼まれた。人手はあった方がいいというので叔母に頼まれて同居人も駆り出された。

本当は断りたかったが、頼まれると断れないたちだ。

僕と出会う前から、僕の日記を読んでいた彼女は祖父がどんな人か大方知ってはいたが、真実を確かめる意味もあるのか浮足立っているようだった。

祖父は、戦後米軍に就職して英語力をいかし早期に出世し、その後人脈をいかし27歳の時に市議に当選した。

市議を3期努めたが、悪い遊びを覚えたのか、市議を辞めてフィクサーになった。

僕が、幼稚園の時に祖父と初めて会った。横には後で知ったが渡辺美智雄がいた。

お孫さんかと言って笑った笑顔は、人たらし特有のものだったが、真顔に戻った時の顔が怖かった。こんなにも怖い顔の人は見たことがなかったのでそのギャプで印象に残った。

祖父の仕事は詳しくは知らないが、宜しくないことをやっていたのは確かだと思う。

首都高を銀座で降りてすぐの歌舞伎座の裏に住まいはあった【ファミールグラン銀座4丁目】そこから反対側の新橋に移る。

車を近くの駐車場に止めて彼女と、マンションに向かって歩いているとスーツを着た60代ぐらいの男性二人組が「あいつまだ死なないのかよ」

それを聞いた僕と彼女は「なんだか物騒だね。」

そう言ってお互い苦笑いしてマンションに入った。

4階でエレベーターをおりて真正面の部屋だった。中に入ると祖父と、僕と歳が近い叔母がいた。その辺りは複雑だ。

ワタルきたか。とソファに座っている祖父が笑った。

視線を横に向けたのでちょっと恥ずかしかったが彼女ですと紹介した。

祖父がさっきとは違う苦笑いをしたような顔をした。

彼女が動じなくいつも通りの「アサコです!」と挨拶をしていた。

彼女が部屋の掃除を、僕が荷物を下に止めてある車に運び込む。

作業を始めようとしたら、マンションに入る前にすれ違った男性が部屋に入ってきて、

「先生、わたくし上野で待ち合わせをしているので。これで失礼します。」

彼女の方を見たら彼女も僕を見て苦笑いをしていた。

帰りの車の中で彼女が、

「センセイ、わたくしウエノで待ち合わせをしているので。これでシツレイします。」

何度もモノマネをしていた。

それから祖父が死んだのは半年後だった。

※写真は銀座。
ソニービルにあった今は亡きあるでん亭へ行く途中。二人で行くなら狭くて良かったなあ。何度も行った妻との思い出の場所。

妻がいつもデジカメを持ち歩き、写真好きだったので撮っていた。このような風景写真でも当時の空気感を思い出す。