死にたいの。
2002/3/14 死にたいの。

入学式を終え定時制高校で親睦会を兼ねてキャンプに行ったときのことだった。

好奇心旺盛で恐いもの知らずだった16歳の僕は「どこから来たの?」とたくさんの人に話かけた。定時制なので、年齢の幅や変わった人も多く話すのは楽しかった思い出がある。

一人でポツンといる人見知りが激しそうな目が大きい女の子が気になり声をかけてみた。「みんなでカレーを作ろう!」「う、うん。」

あまり良い返事ではなかったし、会話も弾まなかったので何だか嫌われているように感じた。

夜になり、周りは酒を飲み始めた。

みんなでカレーを作ろう!と声をかけた女の子のお酒の飲みっぷりが凄い。

「大丈夫?そんなに飲んで?」「全然へいき〜!」

カレーを作っている時に声をかけた時の人見知りの彼女はいずこへ??酒乱?

どう考えても全然平気じゃない。20分ぐらい経って彼女は、「吐いちゃう」と言ってよろめきながら立ったので、僕は心配になりついていって介抱を外でしてあげていたら、突然彼女が泣き出した。

何だか会話も弾まなかったし、やっぱり嫌われているんだ。どうしよう。

そんなことを思っていたら、彼女が喋りはじめた。

「カレーを作ろうって声をかけてくれたでしょ?嬉しかったんだ!アタシ人見知りするし…。お酒飲まないと喋れないの、オェ〜!」

「大丈夫?」

「全然大丈夫〜!」

と言う彼女の目は泳いでいた。そして彼女は、

「アタシね〜。死のうと思ったことがあるんだ。」

いきなりそんなことを言われたので、僕はどう返事をしていいのか分からなかった。

だけどその「死のうと思ったことがあるんだ。」という言葉を聞いたとき僕はなぜか勃起した。

「ワタシの親って仲が悪いんだ〜。お父さんはずっと帰ってこないし…」

僕はかわいそうだと思った、でもその思いとは裏腹に…。ダメだ。立つんじゃない!下半身だけは別の反応を示し始めた。

「私の名前、麻子っていうんだけど、大麻の麻って書くんだ。」

どんな話を聞いても僕はどんどん勃起する。どうにも止まらない。

男とはこんなものなの?と思い僕は僕で別の思いで悲しくなり死にたくなった。

「ワタシそれで死のうと思ったの。手に傷があるでしょ?」

彼女の話を親身に聞いている上半身。別の反応をどんどんどんどん示している下半身。それを制御する理性。僕は訳が分からなくなってきた。

彼女がよろめき、彼女を起こすために彼女の手に触れ合うだけで今までの人生が走馬灯のように駆け巡る。どうしよう。どうすればいい?僕はお酒を飲んでいないのに意識が飛びそうになる。

据え膳食わぬは男の恥じ。そんな言葉を思い出したけど、その後僕は彼女を寝室まで送り届けた。

翌朝になると多弁だった彼女はどこへ行ったのか、また無口で人見知りな彼女に戻っていた。

その後、学校で見かけても彼女から話しかけてくるということもなかった。だけど授業中など視線を感じた。

僕の勘違いでなければ帰り校門の前で、僕を待っているようなこともあった。

しかし僕は話す切欠もなかったし、その後学校に行くのが面倒くさくなり学校を辞めた。

後日、彼女も学校を辞めたと知人から聞いた。

あれから10年経つ。彼女はどうなったのか分からない。子供ができて幸せな家庭を築いているかも知れないし、又は一生懸命働いているかも知れない。

彼女のことを、ふと思い出すことがある。

夜寝る前に電気を消す。冷えた布団に入る。外から車の通り過ぎる音が聞こえる。真っ暗な天井を見て彼女を思い出す。あの子、元気かな…。

あと1ヶ月もしないうちに今年も桜の咲く出会いの季節がやってくる。

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