「お前も盗まれたの?」
「やっぱ道也だよな。あいつと遊んだあと無くなったんだから。」
「おまえも盗まれたの?」
「いや別に…。」
お茶を濁したけど僕もヤツがやったと思っていた。
僕も道也が盗んだと思っていた。
駄菓子屋のおばあちゃんがボケているのをいいことに、菓子を盗んだり、「まだおばあちゃんつり銭貰ってないよ。」と言ってつり銭を2度貰っていたのを何十回と見ている。
それと道也と遊んだ後に買ったばかりの女神転生がなくなっていたんだから…。
「道也無視しようぜ。」
学校でみんなと話して道也を無視することにした。
買ったばかりのファミコンのカセット女神転生がなくなったのは道也と遊んだ日。思い当たるのは、僕の家で遊んでいて駄菓子屋に行こうという話になった。家には道也と僕だけ。
家の玄関で「ちょっと忘れ物。」道也は一人で僕の部屋に戻った。
たぶん盗んだのはその時だ。駄菓子屋でゲームをして道也と別れて家に帰ったらなかった。
親にも言ったけど、向こうの親に連絡するのは気が引けるらしく「注意するように。」とだけ言われた。
学校でみんなに無視をされて道也は一人ぼっちになった。「なに話してるんだ?」と道也が声をかけると会話をしていた輪が散る。道也の側には誰もいない。
そんな道也を見ていたら辛くなった。
盗むのは悪い。でもなんでみんな道也に「お前泥棒だろ!」と面と向かって言わないんだ。先生も先生だ。道也が無視をされているの知っている癖に!
思っていても言えない。
言えないけど遊ぶことならできる。道也と僕の家で遊ぶことにした。
家で遊んでいるときに僕は席を外した。「ちょっとトイレに行ってくる」
その後一緒に駄菓子屋に行って道也に奢ってあげようと思い僕は財布を出した。
「あれおかしい金がない??」
僕の財布には当然お金が入っていない。なぜならトイレに行っている間に財布の2000円が無くなっているから。
僕は縁起をした。
道也の表情が一瞬変わった。道也が言った。「いいよ。オレが奢る…。」
そして道也は「ちょっと用がある。」と言って先に帰ってしまった。その日、道也は駄菓子屋では何も盗まなかった。
「あの子、かわいそうだね。」と駄菓子屋のおばあちゃんが話しかけてきた。
「あの子がお菓子盗んだりつり銭を誤魔化したり。それ知っているんだよ。でも注意してもこんなおばあちゃんの言うことなんて聞きやしないさ。」
僕は用があると言って帰った道也の家に忘れ物を取りに行った。用があるはずの道也が一人で家にいた。
「おまえ無視されてんの知ってるか?なんで無視されているか知ってるか?」
「…。」
「オレおまえを無視するの面倒くさいよ。」
頭をあげた道也と目が合った。
「オレ…。盗み癖があるんだ。前の学校のとき児童相談所ってとこに行った事もある。そこの警察が言ってた。おまえの盗み癖は一生治らないって。こういうの盗み癖っていうんだって。」
「オレさ。おまえ無視しないからな。だから盗むな!駄菓子屋のババア、ボケちゃいないぞ。お前が誤魔化しているのバレとるん。」
明後日、駄菓子に行ったら道也はお菓子を盗んでいた。つり銭をごまかしていた。治らないのかと思っていたらその後、盗まなくなった。ある日、駄菓子屋のおばあちゃんが道也に言った。
「誤魔化さなくなったじゃない。えらい。えらい。」
「なら500円分お菓子頂戴よ!」
道也の笑顔を見たら癖は治ったんだと思った。でもまた翌日お菓子を盗んでいた。それから1年経ち小学校を卒業して道也は引越をして仙台に行ってしまった。
大人になった彼は何をしているんだろう?盗み癖は治ったんだろうか?今はたぶん…。
もう道也のことなんて忘れかけていた中学生になって初めての夏の日。こげ茶になっている使っていない郵便受けの中に道也に貸していたファミコンのカセット女神転生が入っていた。
今はたぶん治っている。