「ここの桜はなぜかはやく咲きますな〜。」
道行く人はみな上を向いて歩いてゆく。
毎年、毎年、桜の開花予想よりも必ず早く咲く桜の木がある。
暖かかったせいもあるのだろう、今年は今日その桜の実は割れた。咲いたと言っても一つ二つ三つ…と数えるほど。
それでもみな、「あ!」と言って桜の咲いたことに気付き上を向いて笑顔で歩いていく。
タイキシャトルという馬がスプリンターズSを勝った12月14日。今から6年前に、その桜の木の下にポンポンインカというオスの手乗り文鳥を埋めた。
競馬場から帰って着たら硬くなって死んでいた。12年も生きていたから手乗り文鳥としては大往生だろうか。
我が家はマンションだしどこに埋めようか悩んだが、家の前に公園があるので弟と一緒に埋めに行った。それが桜の木の下だった。
その翌年から、ポンポンを埋めた桜の木が早く咲き始めた。
毎年、毎年咲くとポンポンインカを思い出す。インカとは名前をつけた当時ビックリマンチョコが流行っていてインカというキャラクターがいたから。今ならピカチュウという名前をつけたかも知れない。
その、ポンポンインカと、もう一匹ポンポンタロウという2匹の手乗り文鳥を飼っていた。インカはオスでタロウはメス。
タロウがメスなのはメスかオスか分からない頃に名前をつけたのでそうなった。
タロウはインカよりも6年前の1月12日に卵を温めながら力尽き死んだ。寒い日だった。男一匹インカだけが残された。
インカは綺麗好きな文鳥で1日3回は水浴びをしていた。鳴き方が変わっていて、ホーホケキュキュキュキュキュキュ〜。と朝ニワトリのように鳴く。
困ったことに、なぜか午前2時ごろに鳴き出すこともあって、オヤジが、
「焼き鳥にするぞ!でも文鳥は食べても美味くないしな〜。スズメなら食べるぞ。」
と何度か言っていたことを思い出す。
死んだ当初は、朝の鳴き声がなくなり、さすがに悲しい気持ちがあったけど、都合のいいもんでその悲しい気持ちもだんだん薄れてインカなんて思い出さない。
ただ、インカを埋めた場所にある早咲きの桜を見るとインカを思い出す。
もしかしてインカが、「憶えていろよ!この野郎。」と訴えているじゃないかって。呪いか?
上の話を知っている家族や話を聞いた人はインカが早く桜を咲かせているんだよという。
でも僕はなぜその桜が早く咲くか知っている。それはインカを埋めた翌年、桜の木の真横に電灯が建った。その電灯の熱で早く桜が咲く。
だけど、みんなこういう話が好きだしこれはこれでいいんだと思う。だから黙っているし言わないでいた。しかし今年は電源節約のため夜になっても電灯がついていない。