2003/8/13 花火。

年に一度の夏の花火大会の日におばあちゃんの家に親戚一同で集まることが恒例行事になっていた。僕も年に一回しか会えないおばあちゃんの家に行くのは楽しみだったし、それにおばあちゃんの家から見上げる花火は格別だった。

おばあちゃんも皆が集まるのを楽しみにしていたらしくって、花火の日には朝から五目寿司を作ったり、家の前の道をほうきで掃いたり張り切っていたらしい。

10年前におじいちゃんが亡くなったおばあちゃんは一人暮しをするには大きすぎる家で一人で暮していた。おじいちゃんの葬式の後、僕のお父さんが「一緒に住まないか。」と言ったがおばあちゃんは断った。

今から50年前。24歳の時に若いおばあちゃんは今住んでいる場所に嫁いて来た。「あの頃は貧乏だったけど楽しかったねー。」がおばあちゃんの口癖だった。

今から3年前におばあちゃんの家の前に大きなビルが建った。バブルの頃にビルを建てる計画をしたが、折りからの不景気により建設が遅れ5年前から工事が始まった。

ビルが建った年におばあちゃんの家に花火を見に行った。いつもの年と同じように親戚やその友達なんかがきていた。花火が始まったがビルが建ったために花火が上がる音しか聞こえない。

「花火が見えないんじゃなー。オフクロも頑固だからな。立ち退けば良かったんだけど。お金も入ったろうし。」

父がおばあちゃんに聞こえるか聞こえないかの声でそんなことを行った。

その次の年からおばあちゃんの家に行かなくなった。

それから7年後。僕は高校生になった。「花火大会行かないか?」友達とそんな話になった。「どこかいいとこないかな?」僕はおばあちゃんのことを思い出した。

友達を連れておばあちゃんの家に行くことにした。突然行って驚かせようと思った。久しぶりに行ったおばあちゃんの家の周りにはまた新しいビルが建っていた。

「おばあちゃん元気!」

「大きくなったねー。」

久しぶりに見たおばあちゃんは痩せていた。

「さあさあ五目寿司を用意してあるからね。」

僕は驚いた。おばあちゃんに僕たちが行くなんてことは言っていない。

「なんでおばあちゃん僕たち来るの分かったの?」

「この日は毎年朝から掃除をして五目寿司を作る。これは昔から変わらないんだよ。」

7年前から親戚は来なくなった。作って残った五目寿司はどうなったんだろう。そんなことは聞けない。

五目寿司を食べていると花火の音が聞こえてきた。

「花火はじまった!」

友達の一人が言った。でもここからではビルがあって花火が見えない。僕はビルを壊してやりたいと思った。

「花火が始まったね。さあさあ特等席を用意してあるよ。こっちこっち。」

おばあちゃんが庭に出て手招きをした。

僕らはおばあちゃんのいる所に行って空を見上げた。やっぱりビルしか見えない。

花火が上がる音が聞こえた。空が明るくなった。花火が見えないはずなのに空が明るくなった。

友達が声をあげた。「おーすげぇ!」


僕はその声に釣られてまた空を見上げた。そこにはビルの窓に映った花火が見えた。

「3年前に家の裏側にもビルが出来たんだよ。そのお陰でまた花火が見えるようになっただんだよ。」

おばあちゃんは嬉しそうにそう言った。

「やっぱおばあちゃんの家から見る花火は最高だね。」

「どうだ。すげぇだろ?」

僕は友達にそう自慢した。

来年も遊びに来よう、いやちょくちょく来よう。僕はビルに映し出される花火を見て思った。

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