ゆきちゃんの歩き方が変だ。目があったけどゆきちゃんは知らん振り。
近づくとゆきちゃんから異臭がした。すぐさま思った。ゆきちゃんはうんちを漏らしている…。
ゆきちゃんは結構かわいい。ゆきちゃんが僕のことを想ってくれるのなら無条件で僕も想って両想いになる。そんなかわいいゆきちゃんがうんこタレだ。
うんちを漏らしたことに気づいた僕を察したのかゆきちゃんの目から涙が零れた。泣いたところでうんちの臭いは消えないし逆に目立ってしまう。
クラスメイトがこんな状態のゆきちゃんに気づきでもしたら、明日から当分の間、うんちを漏らしたといわれる。いや大人になって言葉に出さないまでもウンチを漏らした女というのは潜在意識の中に残ってしまう。
男の僕ならまだしも、ゆきちゃんは女の子だ。男の僕は守ってあげないといけない。
「ゆきちゃん。大丈夫。僕が隠すから。一緒に帰ろう。」
ゆきちゃんは表情を崩せない状態みたいだ。でもなんとなくありがとうというような表情にも見える。僕はゆきちゃんを家まで送り届けるという指名を真っ当することにした。僕は白馬の王子様にでもなった気分だ。
ゆきちゃんの家まではあと1キロある。それまでにクラスメイトや知り合いからゆきちゃんを守らなければいけない。そう想うと不思議と臭いが気にならなくなった。いやその臭いでさえいとおしく想えるから不思議だ。
ゆきちゃんの家まで何通りか道はある。人目がない道を通るのが得策だが、フェンスを越えるというのは今のゆきちゃんの状態ではかなり厳しい。
もう一つは八百屋の前を通る道があるが、八百屋のおばちゃんはこういうのには目ざとい。声を掛けられたら最後。騒ぎや噂が大きくなり悪夢のような結末になることは分かっている。
そこで、線路に降りて線路伝えにゆきちゃんの家を目指すとにした。今の時期なら背丈より大きなすすきがいっぱいなっていて、僕らのことは見えにくい。
線路に降りようとしたら、隣のクラスの研ナオコみたいな鼻を持つ矢部に見つかった。「何してるん?線路に下りると怒られるっぺ。」矢部のクラスでは最近○○っぺ。という言葉使いがブームらしい。
先に線路に降りたゆきちゃんには気づいていないらしいが、矢部の不自然なほどに上に向いた鼻はくんくん動いている。「なんか臭いっぺ?」「そうか?」「うんこ漏らしてるんじゃないか?うんこくさいっぺ。」「バカじゃないの?オレのケツ嗅いでみろ。」
僕は矢部に半ズボンを履いたお尻を突き出した。「うんこ漏らしていたら茶色いはずだろ?気のせいだよ。鼻詰まってるんじゃ?」「そうだ。今日遊べるっぺ?ポートピアやろうっぺ。」「あ〜オレ今日塾だから。今度な矢部!」
そういって僕は線路に降りた。そこにはゆきちゃんがうずくまっていた。ゆきちゃんの顔を見たら先ほどとは違い、苦しみから全て解きはなたれた表情をしていた。まさか…。
「ごめんなさい。」
ゆきちゃんは寂しそうな表情でそう言った。
僕は力いっぱい踏ん張った。
「僕も漏らしちゃったみたい。」
ゆきちゃんは一瞬びっくりした表情をしたが、僕のことを臭いと言って笑ってくれた。
別れたはずの矢部が線路に降りてきた。「お前らなにイチャイチャしてるんだっぺ。それにしてもうんこくせぇ〜っぺ。」
「矢部ごめんな。おれやっぱウンコ漏らした。」それを聞いた矢部は2歩ほど後ずさりした。
「野グソしてたっぺか?」「うん。野グソしていたらゆきちゃんに見つかって。」僕の後ろに隠れるようにいるゆきちゃんに僕は目配せをした。矢部から見られたゆきちゃんは頷いた。
僕は言った。「ドラクエとパルテナの鏡を1ヶ月貸すから内緒にしていてほしいんだ。」
それを聞いた矢部はばつの悪い表情をして言った。
「おれんちファミコンないから…。だからカセット借りても…。」
「矢部お前ファミコンのカセットいろいろ持ってるって皆に言ってたじゃないか?」「あ、それは…。」「じゃあ本体も貸してあげるよ。でも1週間だけな。」
3人とも秘密ができた。