用事があったので実家に電話を掛けました。
最初におばあちゃんが出るのはいつものことです。そしておばあちゃんが受話器を取ってもこちらから「もしもし」と言わない限り無言なのはいつものことです。
おばあちゃんが言うには、一年ほど前から変な電話が掛かってきているらしくこちらから「もしもし」と言ったら切れてしまうので、 相手が名乗らない限りずっと無言にしているそうです。
ワンギリ成らずばあちゃん斬りでしょうか?世の中変わった趣味の人もいるものです。
そんな訳でこちらからいつものように「もしもし」と言ったのですが、「どちらさまですか?」
あらら、あんなに可愛がっている孫の声を忘れてしまったのかと?
「おばあちゃん。」
といつもよりやさしい声で言っても「どちら様ですか?」
もしや?ボケた?
真剣に、「わたるだよ!!」
受話器の向こうの会話が聞こえます。
ばあちゃんが、「なんか声が変。」と近くにいる母に言っています。
なぜか僕は焦り、
「オレだよ。オレ、ワタルだよ!」
受話器の向こうのばあちゃんが、「なんか詐欺みたい。」と近くにいる母に言っています。
「ばあちゃん。わたるだよ。わたる。オレだよ。僕だよ。」
ありとあらゆる一人称を使いました。
それを聞いた僕の近くにいるETさんが、「オレオレ詐欺みたいに聞こえる。」
受話器の向こうが騒がしくなっています。おばあちゃんが「あんた(母のこと)変わってみて」
母がいきなり「あんたなんなのよ!」
なんなのと言われてもわたるです。わたしがわたるです。まつだわたると申す息子です。
「オレだよ。オレわたるだよ!」
もうどうにも止まらない。自分をどう表現していいか分からない。自分が誰なのかさえも分からない。信じてくれよ~!
「おばさん!(母のこと)」
やっと分かったのか母が「わたるなの?声が変。」
「うん。ワタルだけど。声が変って?」
「ロボットみたいな声がするの!」
母がなんだか怒っています。受話器の向こうの会話では母がおばあちゃんに「詐欺みたいよ。」
もうこれ以上、僕、松田家の長男というのを分かってもらうのは無理みたい。僕は緊張の糸と共に静かに携帯を切りました。
なんだかもの凄く悪いことをしているようです。
やり取りを近くで聞いていたETさんが「オレオレ詐欺みたいだったよ。」
それを聞いた僕は警察を呼ばれたらマズイなと思い電話を掛けなおすことにしました。
言い方が悪かったのかなと思いやさしい声を出したりして「もしもし」「もしもしわたるです。」「もしもし僕です。」
何度も練習をして声を整えてから電話を掛けなおしました。
ガチャ!「わたるですけど?」と言おうと思ったら、
いきなり母が怒った声で、「なんなのよ!」
「すみません。わたるだけど?」
半信半疑で自分の名前を言ったら、「わたるなの?」
やっと分かってもらえた。嬉しくて涙が出そうでした。
母が、「さっきの電話は声が変だったから。ロボットみたいだった。」
母が「で、なんか用なの?」
家はオレオレ詐欺に引っかからなさそうです。
皆さんもご実家に、「オレだよ!オレ!」と電話を掛けてみたらどうでしょうか?防災訓練ならず良いオレオレ訓練になるかと思われます。