キャビの死は父からのメールで知りました。
父からのメールはたまたま見た迷惑フォルダーに分類され、件名は【556】となっていました。
キャビが死んだ時間だったんですが、最初はサビ止めスプレーのことかと思いました。
メールを開くと、
「キビしんた」
と一言書かれたのみでした。戦時中の電報よりカタコトです。
それだけで「あ〜あ終わったな。」というのが分かったんですが、腐敗を止めるためにサビ止めスプレーを撒く恐れもあるのですぐに電話しました。
ペットが死んだ後どうするのか。
キャビはどうしたのかと父に聞いたら、
「いまさっき火葬場に持って行った。2万円だったぞ。高いな。小型犬の方が安いから、【キャビは小型です】と言ったらダメだった。」
弟が弱ったキャビを看病し綺麗に毛も整え看取ったのこと。その後、父はペット専用の火葬場を調べそこに持っていったそうです。
電話を切ったあといろいろと気になり、すぐにキャビの抜け殻を持って行った火葬場をネットで調べました。
サイトには火葬方法とその値段が書いてありました。
犬のサイズ、重量によって価格が違うそうです。一番大きい犬と小さい犬では3万円以上火葬の価格が違います。
中型犬2万円のコースは、【合同火葬】犬も猫も他の動物も一緒に火葬して一緒にお墓に入れて供養するものでした。
その他には合同よりも1万3千円高い【個別火葬】というのがありました。個別火葬はその名の通り一体一体別々で火葬すると言うもので、骨も人間と同じように骨壷に入れて返骨もしてもらえます。
ちょっと待てよと。キャビは人見知り、犬見知りの激しい犬でした。最後の最後で一緒にしてしまうのは可愛そうだなと。
業者の思う壷。
さっき持っていったらまだ間に合うはずだ。いや間に合ってくれ。すぐ火葬場に電話をしました。
「キャビアという名前の犬で先ほど伺ったようですが?」と聞いたら「キャビヤちゃんですかね?」
いや「キャビアです。ヤではありません。」
登録してあった住所は実家の住所なので、それはキャビアの抜け殻です。あとで父に聞いたら「キャビヤじゃなかったのか?」
ずっと名前を間違えて憶えられていました。ミヤネアじゃないです。ミヤネ屋です。ミリオネヤじゃなくってミリオネアです。死んでやっと本名が分かりました。
通常、1日は霊安室に置かれ翌日にこんがり焼くそうです。
火葬場の台帳や骨壷に愛犬の名前が記載されるらしいのですが、キャビヤじゃなくてキャビアで記載されるようにも変更しました。
取りあえず、いろいろ間に合いました。
さらにオプションでお経を詠んだり葬式をしたりするコースもありました。お葬式までしたら5万円以上はするようです。もう一匹犬が買えるのでやめました。
翌日こんがり焼きあがったキャビの骨を受け取りに行きました。
儲かっているのでしょうか。金縁眼鏡を掛けた茶髪の成金ふうのおじさんが対応してくれました。
「キャビアちゃん、骨がたいへん丈夫で綺麗に骨が全部残りました。喉仏も綺麗に残っています。尻尾から順番に骨壷に収めました。」
人間と同じように喉仏が一番大切なようです。成金ふうのおじさんは喉仏が綺麗に残りましたと強調していました。
「骨が丈夫でたくさん残ったので大き目の大型犬サイズの骨壷に収めました。」
焼き上がりのキャビは立派な骨壷に入っていました。キャビの中には人間が入っていたんじゃないかというような、かなり大きなサイズの骨壷でした。
自分の父のタダシが死んだらこのペット火葬場で対応できそうです。墓に彫る名前はダダシにします。タダジでもいいです。間違っていればなんでもいです。
骨壷の中身は怖くて見ていません。
しかし個別に火葬してよかったなと思いました。ペットの火葬を役所に頼むと1千円から2千円で持っていってくれるそうですが、あくまで生ゴミと同じ扱いだそうです。
個々の考え方でしょうが、生ゴミと同じ扱いには抵抗があります。ペット専用の火葬場が儲かる訳です。
僕がお墓を買ってキャビはそこにいれるつもりです。
僕は無宗教で何も信じないのですが、空からみんなをお守りください。ありがとう。
旅行に行っていました。
帰ってきたら愛犬のキャビアさんが死んでいました。今度はキャビが旅に出ました。
6月17日 17:56 人間なら100歳ぐらい。僕が犬なら何歳でしょうか。天才ではないことは確かです。
日曜日にETさんのお父さんのお姉さんの家のある柴又に初めて行ってきました。
ETさんのお父さんはもうすぐ2歳になるお孫さんの面倒を前日から見ていたせいか、「若いですね〜。」と言うおべんちゃらも言えないぐらいに憔悴していました。
そして疲れている上に、お酒をぐいぐい飲んだ成果でしょうか。いや飲んだせいか、急に寝たりまた起きて箸でコップを叩き始めたりしました。
柴又の親戚の家には朝子さんことETさんの東京のお父さんと言われる80歳近い叔父さんがいます。
僕はそのおじさんにお会いするのは初めてです。
何を話していいのかまったく分かりません。
ETさんから聞いていた叔父さんのことと言えば、おじさんはお風呂嫌いでたまにお風呂に入ったおじさんの後のお風呂に入ると、アカが浮いて汚いということしか叔父さんのことを知りません。
「垢浮いていらっしゃるんですって?」と聞く訳にもいきません。
ETさんのお父さんがたびたび寝落ちします。一度、寝落ちすると5分程起きません。頼みの綱のETさんは別の部屋にいます。
僕とおじさんだけがテーブル席で生きています。
あ、ETさんのお父さん寝た、さあどうしよう。こういう時は喋らず起こさず静かに時が過ぎるとの待つのか。さあどうしよう。
柴又のおじさんの顔を伺うとおじさんも同じことを思ったのか目が合います。気まずい空気が流れます。
寝ているETさんのお父さん二人羽織で動かしちゃおうかと思ったんですが、そういう訳にもいきません。
このまま柴又のおじさんと僕が見詰め合って恋に落ちても困るので、最近おじさんが熊本城に行ったという会話をしていたのを広げようと思いました。
「熊本城って凄いですよね〜。たしか世界遺産に登録されましたよね。いや〜僕も行ってみたいんですよ。戦国時代が好きで。いいところですよね。熊本。とんこつですね〜。熊本。馬刺しですね〜。熊本。」
おじさんは、「子供の頃、住んでいてね〜。城で遊んだんだ。」
誇らしげに熊本城の話をします。おじさんも故郷の熊本城が世界遺産だと初めて聞いたのでしょうか。楽しそうにお話してくれました。
さすが世界遺産!!!会話が弾みます。
熊本の話をしていると、ETさんのお父さんが目を覚まし「おっと。」
映画でいう【カット!】が入ります。
そのシーンを何度繰り返したでしょうか。
熊本城は世界遺産だと何度言ったでしょうか。絶大な効力です。世界遺産。
バカの一つ覚えとはこのことです。そんな一つ覚えの知識でも知識というのは人を助けます。日ごろの勉強が役にたった瞬間です。
家に帰り気になったので【世界遺産 城】で検索しました。
世界遺産は姫路城でした。
その日は白目をむいて寝落ちしました。おじさんごめんなさい。